一般貸切旅客自動車運送事業者は、新たに雇い入れた運転者の雇い入れる前の事故歴を把握し、該当する適性診断を受診させ特別な指導を実施しなければいけません。今回は、入社時から貸切バスを運転することができるようになるまでの流れと必要な事項を解説していきます。
入社から貸切バス運転までの流れ
1.雇い入れる前の事故歴の把握について
自動車安全運転センターが交付する無事故・無違反証明書又は運転記録証明書等により、雇い入れる前の事故歴(少なくとも過去3年間)を把握し、事故惹起運転者に該当するか否かを確認しましょう。
2.雇入時の健康診断について
労働者を雇い入れた際に健康診断を受診させることは、例外を除き義務づけられています。必ず受診させましょう。
雇入時の健康診断受診項目
①既往歴及び業務歴の調査
②自覚症状及び他覚症状の有無の検査
③身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
④胸部エックス線検査
⑤血圧の測定
⑥貧血検査(赤血球数、血色素量)
⑦肝機能検査(GOT、GPT、y-GPT)
⑧血中脂質検査
⑨血糖検査
⑩尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
⑪心電図検査(安静時心電図検査)
3.適性診断の受診について
特定の運転者(事故惹起運転者、初任運転者、高齢運転者)の方は、国土交通大臣が認定した適性診断を受診することが義務づけられています。該当する適性診断を必ず受診させましょう。
<受診対象者> | |
特定診断Ⅰ | 【事故惹起者】 死者又は重傷者を生じた交通事故を引き起こし、かつ、当該事故前の1年間に交通事故を引き起こしたことがない者及び軽傷者を生じた交通事故を引き起こし、かつ、当該事故前の3年間に交通事故を引き起こしたことがある者 |
特定診断Ⅱ | 【事故惹起者】 死者又は重傷者を生じた交通事故を引き起こし、かつ、当該事故前の1年間に交通事故を引き起こしたことがある者 |
初任診断 | 【初任運転者】 運転者として新たに雇い入れた者 |
適齢診断 | 【高齢運転者】 高齢者(65歳以上の者) |
該当する対象が重複する場合は①特定診断Ⅰ又はⅡ②適齢診断③初任診断の順番になります。
<例>
運転者として新たに雇い入れた者が、事故惹起者かつ高齢者(65歳以上の者)に該当する場合は、特定診断Ⅰ又はⅡを受診させます。
4.特別な指導について
事故惹起運転者、初任運転者、高齢運転者の中で該当する全ての特別な指導を実施する必要があります。
<例>
運転者として新たに雇い入れた者が、事故惹起者かつ高齢者(65歳以上の者)に該当する場合は、事故惹起運転者、初任運転者、高齢運転者に対する特別な指導を実施する必要があります。
<事故惹起運転者>
死者又は重傷者を生じた交通事故を引き起こした運転者及び軽傷者を生じた交通事故を引き起こし、かつ、当該事故前の3年間に交通事故を引き起こしたことがある運転者
<指導内容> |
①事業用自動車の運行の安全及び旅客の安全の確保に関する法令等 事業用自動車の運行の安全及び旅客の安全を確保するため道路運送法その他の法令等に基づき運転者が遵守すべき事項(運行指示書の遵守も含む。)を再確認させる。 |
②交通事故の事例の分析に基づく再発防止対策 交通事故の事例の分析を行い、その要因となった運転行動上の問題点を把握させるとともに、事故の再発を防止するために必要な事項を理解させる。この場合において、交通事故時のドライブレコーダーの記録を利用して指導する。 |
③交通事故に関わる運転者の生理的及び心理的要因並びにこれらへの対処方法 交通事故を引き起こすおそれのある運転者の生理的及び心理的要因を理解させるとともに、これらの要因が事故につながらないようにするための対処方法を指導する。 |
④運行の安全及び旅客の安全を確保するために留意すべき事項 旅客自動車運送事業者の事業の態様及び運転者の乗務の状況等に応じて、シートベルトの着用を徹底させることその他の事業用自動車の運行の安全及び旅客の安全を確保するために留意すべき事項を指導する。 |
⑤危険の予測及び回避 危険予知訓練の手法等を用いて、道路、交通及び旅客の状況に応じて交通事故につながるおそれのある危険を予測させ、それを回避するための運転方法等を運転者が自ら考えるよう指導する。また当該運転者が実際に運転する事業用自動車と同一の車種区分の自動車を用いて、制動装置の急な操作の方法について指導する。 |
⑥ドライブレコーダーの記録を利用した運転特性の把握と是正 ⑦の安全運転の実技を実施した時のドライブレコーダーの記録により運転者に自身の運転特性を把握させた上で、是正のために必要な指導を行う。 |
⑦安全運転の実技 実際に運行する可能性のある経路(高速道路、坂道、隘路、市街地等)において、道路、交通及び旅客の状況並びに時間帯を踏まえ、当該運転者が実際に運転する事業用自動車と同一の車種区分の自動車を運転させ、安全な運転方法を添乗により指導する。 |
<指導時間> |
上記①から⑥までについて合計10時間以上実施すること。 ⑦について20時間以上実施すること。 |
<初任運転者>
一般貸切旅客自動車運送事業において事業用自動車の運転者として新たに雇い入れた者
<指導内容> |
①事業用自動車の安全な運転に関する基本的事項 道路運送法その他の法令に基づき運転者が遵守すべき事項及び交通ルール等(運行指示書の遵守を含む。)を理解させるとともに、事業用自動車を安全に運転するための基本的な心構えを習得させる。 |
②事業用自動車の構造上の特性と日常点検の方法 事業用自動車の基本的な構造及び装置の概要及び車高、視野、死角及び内輪差等の他の車両との差異を理解させるとともに、日常点検の方法を指導する。この場合において、当該運転者が実際に運転する事業用自動車と同一の車種区分の自動車を用いて指導する。 |
③運行の安全及び旅客の安全を確保するために留意すべき事項 旅客自動車運送事業者の事業の態様及び運転者の乗務の状況等に応じて、シートベルトの着用を徹底させることその他の事業用自動車の運行の安全及び旅客の安全を確保するために留意すべき事項を指導する。 |
④危険の予測及び回避 道路、交通及び旅客の状況の中に含まれる交通事故につながるおそれのある主な危険を理解させるとともに、それを回避するための運転方法等を指導する。また、当該運転者が実際に運転する事業用自動車と同一の車種区分の自動車を用いて、制動装置の急な操作の方法について指導する。 |
⑤安全性の向上を図るための装置を備える事業用自動車の適切な運転方法 安全性の向上を図るための装置を備える事業用自動車を運行する場合においては、当該装置の機能への過信及び誤った使用方法が交通事故の要因となるおそれがあることについて説明すること等により、当該事業用自動車の適切な運転方法を理解させる。 |
⑥ドライブレコーダーの記録を利用した運転特性の把握と是正 ⑦の安全運転の実技を実施した時のドライブレコーダーの記録により運転者に自身の運転特性を把握させた上で、是正のために必要な指導を行う。 |
⑦安全運転の実技 実際に運行する可能性のある経路(高速道路、坂道、隘路、市街地等)において、道路、交通及び旅客の状況並びに時間帯を踏まえ、当該運転者が実際に運転する事業用自動車と同一の車種区分の自動車を運転させ、安全な運転方法を添乗により指導する。 |
<指導時間> |
上記①から⑥までについて合計10時間以上実施すること。 ⑦について20時間以上実施すること。 |
<高齢運転者>
65歳以上の運転者
<指導内容> |
適性診断の結果を踏まえ、個々の運転者の加齢に伴う身体機能の変化の程度に応じた事業用自動車の安全な運転方法等について運転者が自ら考えるように指導する。(特に決められた項目や指導時間はありません。) |
5.受診すべき適性診断と特別な指導の対象者 早見表
乗務員台帳へ忘れずに記載しましょう!
乗務員台帳の健康診断・適性診断・特別な指導の項目についても記載を忘れないようにしましょう。