旅客自動車運送事業者は、毎年、作成した教育計画に基づき、事業用自動車の運転者(選任されている運転者全員)に対する指導及び監督を実施しなければいけません。また、その日時、場所及び内容並びに指導及び監督を行った者及び受けた者を記録し、かつ、その記録を営業所において3年間保存しなければいけません。
1.年間教育計画を作成しましょう
まずは、指導及び監督の必須項目(13項目)に基づいた運転者への教育計画を作成する必要があります。計画については、事業者ごとのペースで構いません。(2ヵ月に1回、4半期に1回等)
無理なく、継続的に実施できる計画を作成しましょう。
チェックポイント
指導及び監督の必須13項目以外にも旅客自動車運送事業運輸規則内で定められている※異状気象時における対処方法と※非常信号用具、非常口、消火器の取り扱いの指導については、計画に取り入れて一緒に実施しましょう。
2.指導及び監督の内容(必須13項目)
①事業用自動車を運転する場合の心構え
旅客自動車運送事業は公共的な輸送事業であり、旅客を安全、確実に輸送することが社会的使命であることを認識させるとともに、事業用自動車による交通事故の統計を説明すること等により、事業用自動車による交通事故が社会に与える影響の大きさ等を理解させ、事業用自動車の運行の安全及び旅客の安全を確保するとともに他の運転者の模範となることが使命であることを理解させる。
②事業用自動車の運行の安全及び旅客の安全を確保するために遵守すべき基本的事項
道路運送法、道路交通法及び道路運送車両法に基づき運転者が遵守すべき事項(運行指示書の遵守を含む。)を理解させる。また、当該事項から逸脱した方法や姿勢による運転をしたこと及び日常点検を怠ったことに起因する交通事故の事例、当該交通事故を引き起こした旅客自動車運送事業者及び運転者に対する処分並びに当該交通事故が加害者、被害者その他の関係者に与える心理的影響を説明すること等により、当該事項を遵守することの重要性を理解させる。
③事業用自動車の構造上の特性
自らの運転する事業用自動車の車高、視野、死角、内輪差、制動距離等を確認させ、これらが車両により異なることを理解させるとともに、これらを把握していなかったことに起因する交通事故の事例を説明すること等により、事業用自動車の構造上の特性を把握することの必要性を理解させる。また、従来乗務していた事業用自動車と制動装置又は変速装置の操作性等が著しく異なる事業用自動車に乗務しようとする運転者に対して、乗務前に制動装置又は変速装置の操作性等を把握させましょう。
④乗車中の旅客の安全を確保するために留意すべき事項
加速装置、制動装置及びかじ取装置の急な操作を行ったことにより旅客が転倒した等の交通事故の事例を説明すること等によりこれらの装置の急な操作を可能な限り避けることの必要性を理解させる。また、このほか、走行中は旅客を立ち上がらせないこと及びシートベルトが備えられた座席においてはシートベルトの着用を徹底させること等乗車中の旅客の安全を確保するために留意すべき事項を指導する。
⑤旅客が乗降するときの安全を確保するために留意すべき事項
乗降口の扉を開閉する装置の不適切な操作により旅客が扉にはさまれた等の交通事故の事例を説明すること等により、旅客が乗降するときには旅客の状況に注意して当該装置を適切に操作することの必要性を理解させる。また、このほか、周囲の道路及び交通の状況に注意して安全な位置に停車させること及び旅客の状況に注意して発車させること等旅客が乗降するときの安全を確保するために留意すべき事項を指導する。
⑥主として運行する路線若しくは経路又は営業区域における道路及び交通の状況
主として運行する経路をあらかじめ把握させるよう指導するとともにこれらの状況を踏まえ、事業用自動車を安全に運転するために留意すべき事項を指導する。この場合、交通事故の事例又は自社の事業用自動車の運転者が運転中に他の自動車又は歩行者等と衝突又は接触するおそれがあったと認識した事例(ヒヤリハット体験)を説明すること等により運転者に理解させる。
⑦危険の予測及び回避並びに緊急時における対応方法
強風、豪雪等の悪天候が運転に与える影響、加速装置、制動装置及びかじ取装置の急な操作を行うことにより旅客が転倒する等の危険、乗降口の扉を開閉する装置の不適切な操作により旅客が扉にはさまれる等の危険、右左折時における内輪差及び直前、後方及び左側方の視界の制約、旅客の指示があったとき又は旅客を乗車させようとするときの急な進路変更又は停止に伴う危険等の事業用自動車の運転に関して生ずる様々な危険について、危険予知訓練の手法等を用いて理解させるとともに、危険を予測し、回避するための自らへの注意喚起の手法として、指差呼称及び安全呼称を行う習慣を体得させる。さらに、緊急時における制動装置の急な操作に係る技能の維持のため、当該運転者が実際に運転する事業用自動車と同一の車種区分の自動車を用いて、制動装置の急な操作方法について指導する。また、事故発生時、災害発生時その他の緊急時における対応方法について事例を説明すること等により理解させる。
⑧運転者の運転適性に応じた安全運転
適性診断その他の方法により運転者の運転適性を把握し、個々の運転者に自らの運転行動の特性を自覚させる。また、運転者のストレス等の心身の状態に配慮した適切な指導を行う。
⑨交通事故に関わる運転者の生理的及び心理的要因並びにこれらへの対処方法
長時間連続運転等による過労、睡眠不足、医薬品等の服用に伴い誘発される眠気、飲酒が身体に与える影響等の生理的要因及び慣れ、自らの運転技能への過信による集中力の欠如等の心理的要因が交通事故を引き起こすおそれがあることを事例を説明すること等により理解させるとともに改善基準告示に基づく事業用自動車の運転者の勤務時間及び乗務時間を理解させる。また、運転中に疲労や眠気を感じたときは運転を中止し、休憩するか、又は睡眠をとるよう指導するとともに、飲酒運転、酒気帯び運転及び覚せい剤等の使用の禁止を徹底する。
⑩健康管理の重要性
疾病が交通事故の要因となるおそれがあることを事例を説明すること等により理解させるとともに、定期的な健康診断の結果、心理的な負担の程度を把握するための検査の結果等に基づいて生活習慣の改善を図るなど適切な心身の健康管理を行うことの重要性を理解させる。
⑪安全性の向上を図るための装置を備える事業用自動車の適切な運転方法
安全性の向上を図るための装置を備える事業用自動車を運行する場合においては、当該装置の機能への過信及び誤った使用方法が交通事故の要因となるおそれがあることについて説明すること等により、当該事業用自動車の適切な運転方法を理解させる。
⑫ドライブレコーダーの記録を利用した運転者の運転特性に応じた安全運転
運転者等からヒヤリ・ハット体験の報告や苦情の申出があった場合又は重大事故等が発生した場合には、これらの場合について、ドライブレコーダーの記録により加速装置、制動装置及びかじ取装置の急な操作の有無並びに車間距離の保持その他の法令の順守状況等を確認し、当該運転者に自身の運転特性を把握させた上で、必要な指導を行う。
⑬ドライブレコーダーの記録を活用したヒヤリ・ハット体験等の自社内での共有
ドライブレコーダーの記録のうち⑫の場合に係るものを自社内の当該運転者以外の運転者に対する指導及び監督に活用することで、当該指導及び監督をより効果的に行うよう努める。
3.指導記録簿について
運転者への年間教育については、指導記録簿を作成して3年間保存が必要です。
貸切バス教育記録簿チェックポイント
指導記録簿の作成にあたり、下記事項は必須になります。
①実施日時
②実施場所
③実施内容
④指導・監督を行った者及び指導・監督を受けた者の氏名
指導監督に使用した資料の写し等も添付が必要です。また、指導内容の理解度を確認する小テスト等も一緒に実施しましょう。