道路運送法の規定により、自家用自動車は、原則として、有償で運送の用に供してはならず、例外的にこれを行うためには、国土交通大臣の許可又は登録を受ける必要があります。今回は、この法の許可又は登録を要しない場合について解説していきます。
「有償」とは?
「有償」とは「運送サービスの提供に対する反対給付として財物を収受すること。」であり、これに該当するか否かにより、道路運送法の許可又は登録の要否が判断されます。
収受するものが「反対給付」にあたらない場合
利用者から収受するものが謝礼と認められる場合
社会通念上常識的な範囲での「謝礼」は、運送の対価ではありません。運送の提供者が金銭の支払いを求めず、利用者から謝礼として金銭等が支払われたとしても、有償の運送とはいえず許可又は登録は不要です。
ここで言う「謝礼」とは、交通手段を持たない高齢者を街での買い物に同乗させるといったボランティア・共助へのお礼の気持ち程度のもの(ここでは、謝礼の意味する内容を明確にするための例示であって、当然、謝礼の対象となるのは「高齢者の買い物」の場合に限らない。)を想定しています。従って、この謝礼を隠れ蓑にして営利事業を行うことは想定されていません。そのような観点から、以下の場合には謝礼とは認められません。
①運送を提供する者が運賃表を定めてそれに従って利用者が金銭を支払う場合 ②口頭・ジェスチャーにより利用者に強く謝礼を促す等、謝礼の名を借りて実質的には運賃を求める態様の場合。後掲のとおり、燃料代等の実費を求めることは可能です。 ③ウェブサイト等により無償の運送サービスを仲介・紹介するサービスにおいて、謝礼の金額を入力しないとサービスが提供されなかったり、謝礼の有無・金額の多寡により、利用者を選別するなどの取扱いを行う場合 |
利用者からの給付が、実費相当分の場合
運送行為が無償で行われる場合においても、ガソリン代等の「実費」を受け取ることは許されます。この場合には許可又は登録は不要です。 |
「実費」とは、運送(前後の回送を含む。)に必要なガソリン等の燃料代、道路通行料、駐車場代金、保険料、当該運送を行うために発生した車両借料(レンタカー代)をいいます。 保険料については、以下のものを指します。 ①ボランティア団体・NPO等による、一回あたり、又は一日あたりの無償運送行為を対象に提供されている保険(当該保険が、年間契約による場合を含む。)ただし、当該車両にもともと掛けられている自賠責保険・任意保険は対象外となります。 ②レンタカーの借り受けに伴って加入する一時的な保険(免責保証制度(CDW)及び休業補償(NOC))。 |
ガソリン代の算出は、一般的には、直近のガソリン価格等を利用して以下の方法により算出することが可能ですが、運送行為が頻繁に行われる場合に、一定の期間において「1㎞あたり〇円」などと定めて概算することも、簡易な方法として容認されています。 走行距離(㎞)÷燃費(㎞/ℓ)×1ℓあたりのガソリン価格(円/ℓ) |
道路運送法の許可又は登録を要しない場合(具体例)
ホテル・旅館等の宿泊施設の利用者を対象とする運送
<宿泊施設が、駅・空港・港等と宿泊施設との間で、無償の運送サービスを行う場合>
この場合は無償の運送サービスであるから、利用者の依頼・要望に応じて、送迎途中で商店等に立ち寄ることも差し支えありません。また、送迎距離が長距離に及ぶ場合であっても、利用者を対象としたサービスとして社会通念上妥当と考えられる場合は、許可又は登録は不要です。
<ホテル、旅館、農家民泊等が近隣施設や観光スポットへの運送を無償で行う場合>
スキー旅館からゲレンデへの運送、旅館から海水浴場への運送、宿泊施設からイベント会場への運送など、利用者を対象に無料サービスとして行う近隣施設等への運送は、社会通念上常識的な範囲のものは、許可又は登録は不要です。
施設送迎(介護施設、学校その他の施設)の運送
施設利用自体が有償であったとしても、施設の運営者等が施設利用者の送迎のために付随した運送を行う場合、当該運送に特定した反対給付がなければ、許可又は登録は不要です。この場合も無償の運送サービスなので、施設利用者の依頼・要望に応じて、送迎途中で商店等に立ち寄ることは差し支えありません。
生活支援サービスなどとの一体運送
通院や買物等に同行する支援、子供の送り届けなどが含まれる「子供の見守り支援」など、提供するサービスに人の運送が付随して行われるものについては、当該サービス自体が有料であったとしても、当該運送に特定した反対給付がない限り、許可又は登録は不要です。なお、生活支援サービスと称していても、提供されるサービスの実態が目的地への運送のみである場合には、許可又は登録が必要になります。
ツアー等のサービス提供事業者が、ツアー参加者を対象に行うサービスに付随した運送
ダイビング・シュノーケリング等のマリンスポーツやスノーシューツアー等の事業者が、ツアー利用者を近隣の駅・バス停・宿泊施設等からツアー実施場所まで運送するなど、利用者を対象に無料サービスとして行う運送は、社会通念上常識的な範囲のものは、許可又は登録は不要です。
サイクリングツアー等で、ツアー参加者の突発的な身体的不調や急な天候不良等により、ツアー参加者を伴走車に乗せる場合で、運送に特定した反対給付がない場合は、許可又は登録は不要です。
ただし、ツアーと称していても、提供されるサービスの実態が、単に目的地への運送のみである場合には、許可又は登録が必要になります。
通訳案内士等による観光ガイド事業との一体運送
国・地方公共団体及び公益社団法人日本観光振興協会並びに公的機関が認定・付与する資格を有する観光ガイドが、ガイドのために人を運送する場合で、運送に特定した反対給付がない場合は、許可又は登録は不要です。
ただし、観光ガイドと称していても、提供されるサービスの実態が、当該地域に関する専門的な知識や高度な語学力等に基づくガイドの提供ではなく、単に目的地への運送のみである場合には、許可又は登録が必要になります。
社会通念上常識的な範囲や妥当な場合に該当するかどうか、許可又は登録の要否について判断が難しい内容については、管轄の運輸支局で個別に相談してください。 |